遊びがつなぐ、川崎と沖縄、歴史と地域。
川崎競馬場の沖縄イベントへの想い。
川崎競馬場では、競馬が開催されない日にも、内馬場など競馬場内の敷地を活用した様々なイベントを開催している。「川崎・沖縄 オリオン祭」は、そんな内馬場イベントのひとつだ。沖縄の伝統芸能や音楽ライブ、フード&ドリンク、物産展、パネル展示、映画の野外上映など、沖縄カルチャーを思う存分楽しむことができる。
株式会社よみうりランドのルーツでもある川崎競馬場でこのような沖縄イベントが立ち上がったのは、必然だったと言っても過言ではない。川崎競馬場と沖縄には、浅からぬ縁と歴史があるからだ。
その昔、川崎競馬場の地には紡績工場があり、大正から昭和にかけて全国から多くの女性が働きに来ていた。その中で最も多数を占めていたのが、沖縄出身の女性たちだった。
彼女たちは親類縁者とともに川崎に移り住み、沖縄コミュニティーを形成。遠い故郷を偲んで伝統芸能に親しみ、それらはやがて川崎の町に根付いていった。1954年、沖縄民俗芸能は、神奈川県の無形文化財(1976年には指定無形民俗文化財)に指定されている。他県の芸能が神奈川の文化財に指定されるのは稀な例で、川崎と沖縄の結びつきの強さを表していると言えるだろう。また1996年には、川崎市と那覇市間で友好都市協定を締結。日本最古の県人会でもある「川崎沖縄県人会」は、2024年で創立100周年を迎える。
川崎競馬場の土地の記憶を紐解くことは、川崎と沖縄の長きにわたるつながりの歴史を紐解くことに繋がっているようだった。
「この歴史を、イベントにしませんか」
きっかけは、関係者たちとの些細な会話からだったという。川崎競馬場のイベント企画運営をサポートする協力会社の社長と川崎市の元副市長と雑談を交わす中で川崎と沖縄の歴史の話が出たことから、企画は立ち上がった。
「まずは、写真を集めたパネル展から始めてみましょう」
こうして、2018年の4月に前身イベントとなるパネル展「川崎競馬場・沖縄100年の歩み展」を川崎競馬場の2号スタンドにて開催。そして、その翌年の2019年4月、記念すべき第一回目の「川崎・沖縄 オリオン祭」が開催された。
川崎競馬場という地で、
よみうりランドが関わるからこそ
できるイベントを。
「他と同じようなものにはしたくないんです」。
そう語るのは、「川崎・沖縄 オリオン祭」のメイン担当を務める川崎競馬事業部のMさん。沖縄イベントといえば、音楽、食べ物、ビールで、わいわい楽しくというイメージもあるが、オリオン祭ではその立ち上がりのきっかけとなった「歴史」の側面をとても大事にしている。
「オリオン祭は、音楽やグルメももちろんですが、『歴史を紐解くパネル展は絶対やろうね』というスタンスです。川崎と沖縄はそもそもつながりがあって、川崎競馬場の土地はそのきっかけのひとつというバックグラウンドがある。だからこそ“沖縄のカルチャーを集結させる”というテーマを掲げ、ここでしかできない、歴史的な部分を伝えるイベントにすることを目指しています」。
またMさんは「ホスピタリティ」においても、川崎競馬場ならではのものを発揮していきたいという。遊園地事業部から異動してきた際に感じた、カルチャーショックがきっかけだった。
「遊園地と比べて、良くも悪くも接客の緩さがあったんです。競馬場には、イベント会場として使用する上で色々と厳しいルールがあるのですが、そのルールがお客様に十分周知できておらず、イベント当日に急なアナウンスなどでお客様を混乱させてしまうこともありました。
わたしとしては過去に遊園地でチケット販売を経験していたので、周知がいかに重要かを実感していて。なので、イベント公式サイトの立ち上げやSNS運用を始めるなど、お客様への周知の改善に努めました。こちらとしても運営面で楽になりましたし、イベントでの大きなトラブルも起きなくなりました。
遊園地での経験があって良かったなと思う出来事です」と、当時を振り返る。
「ただ一方で、全部が全部、遊園地に合わせる必要はないなとも思いました」とMさん。競馬場には競馬場の良さがあることにもまた気づいたからだ。異動などを通じてノウハウを共有して良いところは上手く取り入れながら、それぞれの場所にとってベストなホスピタリティを更新し続けることこそが、川崎競馬場ひいては株式会社よみうりランド全体にとっての価値につながるとMさんは考えている。
「川崎競馬場って、イベントに来てくれたお客様との距離が近いんです。たとえばお客様がスタッフの顔を覚えてくれて、『お姉さんからまたビール買いに来たよ』と売り場まで買いに来てくれたり。そういった川崎競馬場のもともとの良さを活かしながら、イベントとしてのサービス品質を上げていくことで、オリジナルのホスピタリティを提供していきたいと思っています」。
「川崎・沖縄 オリオン祭」を、
次のステージへ。
これまでとこれからの
「つながり」に向き合う。
年々規模が大きくなっているという「川崎・沖縄 オリオン祭」。Mさんをはじめとするオリオン祭チームは、これからの同イベントの在り方を模索している最中だ。
「目指しているのは、お客様が一日快適に楽しんでもらえる規模感です。無理に大きくするというよりは、来てくださるお客様の心地良さを大切にしたい。あまりに人が来てしまっても、地域の人も困ってしまいますから」と、Mさん。
異動を経てオリオン祭に携わるようになり、地域、川崎市、県人会といった社外の方々と深く関わるようになったことで、「つながり」というものにより目を向けるようになったという。あくまで、これまで関係を築いてきた地域の方々が無理なく楽しめる環境を整えた上で、イベントとしてのクオリティを高めていきたいと考えている。
「今後はもっと、川崎の人が沖縄に遊びに行きたくなったり、逆に沖縄の人が川崎に行きたくなったりするような、そんなコンテンツも増やしていけたらいいなと思っています」。
そう語るのは、イベント協力会社のKさんだ。イベント発起者の一人である社長から担当を引き継ぎ、現在Mさんと二人三脚でオリオン祭の企画運営を行っている。
これまでのオリオン祭は、沖縄をテーマに、周辺地域で活動する方たちに出店してもらい、それをお客様に体験してもらうという形が主だった。それらに加えてこれからは、実際に沖縄で働いている方を招いて川崎の方々と交流の機会を設けるほか、沖縄の観光PRをイベント内で実施するなど、新たなつながりを生むための計画を進めているとのこと。
「つながりを大切にしながらも、イベントとしてやるからには成長していかなきゃと考えているので、そこは意識しながらやっていきたいですね」と、Mさんも熱意をにじませる。また「新たなつながり」という点では、普段競馬を楽しんでくださっているお客様にもイベントにお越しいただけるようにと、施策を練っているところだ。競馬に関心のないお客様や地域のお客様だけでなく、競馬が好きなお客様にとっても、みんなが沖縄に興味を持つきっかけになるようなイベントづくりに励んでいる。
地元の方々と
程よい距離感でつながり続ける、
「地域の公園」を目指して。
イベントとしての成長を見据えながらも、川崎競馬場としていつだってベースにあるのは地域の方々とのつながりだ。
施設管理会社として「競馬が開催されていない日にも施設を有効活用したい」という思いももちろんあるが、それ以上に「地域の方々に競馬場まで足を運んでもらい、競馬場のことを知ってもらう」という意味でも、イベントは重要な役割を果たしている。
「『競馬場』と聞くと、かつてはネガティブな印象を抱く方も少なくはありませんでした。でも、芝生もあって、遊具もあって、実は身近で楽しい場所だということを、地域のみなさまにももっと知っていただきたいんです」。
そんなMさんたちが描いているのは、「地域の公園」という姿。
休日には、競馬に燃える人たち、BBQを楽しむ人たち、遊具で思いきり遊ぶ子どもたちといった様々な目的を持った人々が一堂に会するような、公園と言えるくらい地域に根差した存在に、川崎競馬場はなれるはずなのだと。
「みなさまにとって親しみやすいというか、競馬場と聞いて必要以上に構えずに、ふらっと来られる場所にしたいです。そのためにも、地域の方々が『この時期にはこういうイベントがあるから行こう』となるような、『この時期といえばこれ』というものがつくれるといいなと。
オリオン祭もさらなる定着化を目指して、今後も力を入れていきたいと思っています。
…あとは何より、青空のもとで飲むビールが最高だということを、是非とも味わってもらいたいので(笑)」。
「地域の公園」化に向けた想いも背負い、つながりを紡ぐ「川崎・沖縄 オリオン祭」はこれからも進化し続けるだろう。