毎年10月から約半年間、よみうりランドの夜景を彩る「ジュエルミネーション」は、日本の照明デザインのパイオニアである石井幹子氏が開発した、世界初の宝石色をイメージしたイルミネーションだ。
15年目を迎える今年、日々国内外を飛び回る照明デザイナーが、
「よみうりランドで光を手掛けること」に込めてきた情熱と思いを語った。
よみうりランドを輝かせる宝石は、どう生まれたのか?
「大学を出て数年経った頃、たまたま照明器具のデザインを手がけたのですが、そこに光がともった瞬間、大変感動して。それから光に進んでいったんです」
光のデザインに取り組んだきっかけをそう語る石井幹子氏は、国内外のランドマークや都市の景観照明を手掛けるなど、世界で活躍する照明デザイナーだ。当時照明デザインという言葉すら存在しなかった日本で「光」に心を掴まれた後、フィンランド、ドイツでの修行を経て帰国、ゼロから日本の都市夜景の未来を切り開いた。
様々な文化財などの照明を手掛けてきた石井氏が、よみうりランドと出会い、「ジュエルミネーション」を生んだのは15年前のこと。「依頼を受けた時は、私、稲城市すら知らなかったんです」と意外な事実を語る石井氏。「1回行ってみようということで伺ってみると、東京タワーも横浜も見える。これだけ夜景に恵まれた立地は珍しいなと思いました」と当時を振り返る。よみうりランドが持っていた夜景のポテンシャルが、かつてない光を追い求め続ける照明デザイナーの心を射抜いた瞬間だった。
そうしてスタートしたよみうりランドのイルミネーション計画。なぜ「ジュエルミネーション」なのかと尋ねてみると、「私は、新しい光の開発が大好きで。よみうりランドさんから仕事の依頼を受けた時にちょうど開発していたのが、LEDを使った新しいイルミネーションだったんです。それを使いましょうとなって」と経緯を教えてくれた。そこでコンセプトに決まったのが、宝石色をイメージした光。「宝石って美しくて、みんなが好きでしょう。ダイヤモンド、エメラルド、サファイア、ルビー、アメジスト…5色の宝石色のイルミネーションを作ったらとっても綺麗なんじゃないかと思いました」。そうして、世界初の宝石色をイメージしたジュエルミネーションが誕生した。
デザインをする際に心掛けていることを聞いてみると、「子どもからお年寄りまで、みんなに綺麗ねと言ってもらえるものを作ること」と語る石井氏。「よみうりランドでは、小さいお子さん、お父さんお母さん、それからおじいちゃんおばあちゃんという3世代が一緒に楽しんでいる光景をよく見ます。それがとても嬉しいんです。ですから、皆さんそれぞれに綺麗だなと感じていただけたらなと思っています」。家族みんなが同じ目線で楽しめる光だからこそ、感動と驚きの共有が生まれ、忘れられない体験となるのかもしれない。
光を通して、愛を届ける。
よみうりランドとお客様の絆を祝福する光。
今年15周年を迎えたジュエルミネーション。その大きな特長は、毎年テーマが変わることにある。
これは石井氏の仕事の中でもかなり特殊なことで、同時にかなり頭を使うポイントだという。
「毎年ジュエルミネーションは10月に始まるんですけど、テーマはその年のお正月ぐらいから考え始めます。次のテーマはどうしようってずっと頭のどこかにある感じですね」。やはりその年に相応しいテーマを見つけるのは大変だと語る石井氏だが、「でもそれが楽しいんです」と結んだ。
昨年から掲げている大きなテーマは「LIGHT is LOVE」だ。ここには、世界や私たちをとりまく現状に向けた石井氏の気持ちが込められている。「光はものを見せるだけじゃなくて、癒しの効果もありますし、医療や通信、産業でも使われている、すごく包括的な存在。愛と同じように、色々な物事を包んでくれる象徴だと思うんです」。愛をのせた光はよみうりランドを包み込み、平和への願いや大切な人への想い、かけがえのない日々への慈しみを伝えてくれている。
そして、「LIGHT is LOVE」のテーマのもと、ジュエルミネーション2024のテーマに決まったのが「ダイヤモンド60セレブレーション」だ。なぜダイヤモンドなのかと問いかけると、よみうりランドが今年開園60周年を迎えることをあげ、考え抜いたのちに、「60周年ってつまり、ダイヤモンド婚ってことじゃない?」という着想を得たことを語ってくれた。
開園から60年ということは、よみうりランドとお客様が結ばれてから60年が経ったということ。園内を彩り輝くダイヤモンドの光は、お客様とよみうりランドがともに歩んできた時間を祝福する光なのだ。
心を一つにして生まれる、
「よみうりランドにしかない」光の輝き。
テーマ以外にも、よみうりランドの光には他の照明にはない大きな特長がある。それは今でも、設置や運営の大部分を従業員がやっていること。世界中で様々な光を手掛けている石井氏も、これには感心する。
「一般的な手法のように、デザインだけしてあとは別の会社に任せるんじゃなくて、自分たちでライトの取り付け、取り外しまでやっている。これは本当に大変な作業なんですよ」。自ら遊びを生み出す社員たちの姿はそれだけではない。「私が関わり始めた当初は、ステージ上のダンスなんかも社員の方たちが踊っていたんです」と印象深げに思い出を語り、「よみうりランドは、社員の皆さんが心を一つにして、昔から色々な企画を自分たちで手掛けている。これは本当に素晴らしいことだと思います」と驚きを隠さなかった。
世界中で多種多様な光を手掛けてきた石井氏の作品の中でも、ジュエルミネーションには特筆すべき珍しい光の体験がある。それが「動き」。乗り物に取り付けられた「動く光」と、乗り物の中から感じられる「動きながら見る光」。
遊園地という場所だからこその特長的な光だ。特に、ジェットコースターや観覧車など、様々なスピードが混在する光は、まさしくよみうりランドでしか経験できないものなのだという。
「動くものに乗ってみた人たちから、アレに乗って、どこを見たらいいよ、なんてお話を聞くととっても嬉しいです」と石井氏は微笑した。
仕事と遊びが一体化したプロフェッショナル同士の
相互作用が生んだ、特別な「遊び」。
よみうりランドは「遊びを、まん中に。」というスローガンを掲げている。その印象を尋ねてみたところ、「とてもいいスローガンだと思います。そんな生活になったらいいなと、誰でも思うんじゃないですか」とうなずく。
では石井氏にとっての「遊び」とは何か。「日常の中の非日常体験じゃないでしょうか」。その原体験は、若い頃に行ったコペンハーゲンのティボリガーデンという遊園地にあるという。美しいイルミネーションに照らされたパーク内に人々の歓声が溢れ、市民の憩いの場になっているさまは、まさしく日常の中の非日常を体験できる場所だった。「夜は醜いものはみんな見えなくなって、見せたいものだけ見せられるんです。よみうりランドさんの場合も周りに大変美しい暗みがありますから、それが光を引き立ててくれますね」と照明デザイナーらしい価値観を口にする石井氏。その光の力が加わったからこそ、よみうりランドもまた、「楽しさ」だけではない「美しさ」を体験できる特別な場所になったといえる。
石井氏は、自分とよみうりランドとの共通点についても教えてくれた。「私は新しい光の開発をするのが大好きなんですが、それも何か原動力があるというより、純粋に面白いからやり続けてきたんです。だから私も、仕事と遊びが一緒になっているような感じだと思います」。仕事でありながら、遊びでもある。日常の中の、非日常の体験。
それは石井氏という光のプロと、よみうりランドという遊びのプロが持つ、思いがけない共通項だ。ジュエルミネーションは、仕事と遊びが融合した飽くなき探求心を持つ石井氏と、いつ何時も「遊びを、まん中に。」の心を忘れないよみうりランドとの共鳴から生まれた、唯一無二の「遊び」といえるのかもしれない。
よみうりランドとの二人三脚で、
お客様の美しい時間を彩り続ける
ジュエルミネーションは今年15周年。決して短くはない時間だ。この特別な遊びの歴史が今日まで続いてきた秘訣を、石井氏に聞いてみた。返ってきたのは「やっぱり一番は、主催者であるよみうりランドの皆さんが一生懸命育ててくださったからだと思います」という意外な言葉だった。
光の巨匠が生んだ作品を、よみうりランドが「育てた」とはどういうことなのだろうか。その意図を尋ねると、「私たちは毎年新しいイルミネーションを誕生させて、200枚以上の図面を作って細かくお願いをして…ということをやってますけど、むしろその後の設置や運営が、すごく大きなファクターだと思うんですね」と答える。デザインを生むのも当然大変。けれどそれを運営・維持するのにも、ものすごく大きな力が要るのだ。
さらに石井氏は、よみうりランドの根底にある揺るぎない安全も重要だと語る。「よみうりランドは、ほぼ一年中営業する中で安全・安心を維持しながら、無事故であれだけ多くの乗り物を動かし、お客様を楽しませ続けていますよね。
ジュエルミネーションを開催する大前提として、安心感を守る大変な努力を大勢の方にやっていただいているからこそ、ジュエルミネーションも継続できているんだと思います」。石井氏の光への探求心が生み出した種を、よみうりランドが形にし、育て、守る。双方が心躍る「遊び」を夢見て、ともに創り出すからこそ、多くの人々の心を魅了するのだろう。
最後に石井氏のこれからの展望を聞いた。「よみうりランドは誰もが安心して遊べる場所。中学生・高校生はもちろん、その親御さんも大切なお子様を安心して送り出せるという話も聞きます。
だから、ティーンエイジャーはもちろん、インバウンドの人たちにも安心して楽しめる場所であり続けてほしいですね。よみうりランドに訪れる人の時間が質の高い、楽しくて美しい時間であってほしいと思います」とよみうりランドの未来を語り、「そして願わくば、『今年はどんなかな』と毎年来てくださる方が増えるといいなと思っています。あの光が綺麗だったな、と色々な方の思い出に残っていってほしい」と微笑む石井氏。新しい光を追い求め続けるその想いと、「遊び」に心血を注ぐよみうりランドの努力の結晶は、これからもたくさんの人々の記憶をまばゆく輝かせてくれることだろう。