コロナ禍の子どもたちに一生の思い出を。
遊園地が挑んだ、
唯一無二の修学旅行づくり。

March 19, 2024

2021年3月、コロナ禍で日光への修学旅行が
中止になってしまった
川崎市立小学校在学の6年生を対象に
遊園地を貸切営業した
「かわさき子供元気プロジェクト」。
その実施の裏側で、
プロジェクトスタッフの奮闘の日々があった。

一本の電話からはじまった、
前代未聞の一大プロジェクト。

 事務所のフロアに鳴り響いた着信音。当時はコロナ禍全盛期、よみうりランドでもテレワークが実施され、社員はシフト制で出勤していた。誰が電話を取ってもおかしくない状況で、たまたまその場に居合わせたのが遊園地事業部のNさんだった。彼女が「かわさき子供元気プロジェクト」の担当を務めることになったのは、そんな偶然の出来事がきっかけだった。

 電話は、旅行会社からのものだった。川崎市長から「コロナ禍でまったく遊べていない子どもたちに思い出をつくってあげたい」と相談を受け、よみうりランドとなら何かできるのではないかと思い、連絡に至ったという。

  「電話を取ったとき、とても興奮したことを覚えています。本当にできるのか、そもそもやらせてもらえるのか、半信半疑ではありましたが、コロナ禍でいろんなイベントが中止になっている子どもたちに、小学校最後の思い出をよみうりランドで過ごしてもらえたら、こんなに光栄なことはないと思い、やりたい、実現したい、と強く思いました」。
Nさんは当時を振り返ってこう語った。

  その後、すぐに社内で確認し、正式にNさんを担当者としてこの話を進めることに。電話の時点ではまだ実施が決まっていなかったため、密を避ける提案を織り込みながら市長や校長会会長に「修学旅行企画」をプレゼン。晴れて、よみうりランドでのプロジェクト実施が決定した。

「思い出をさらに良いものに」。
悪戦苦闘する日々を支えた、
子どもたちへの想い。

 密を避け、安全を守りながら、3日間で全114校、12,000人もの子どもたちを迎えるという、未だかつてない挑戦。分散入園の割り振りをはじめとする、コロナ対策を踏まえた全体の動きの設計は、気が遠くなるほど複雑で、それは過酷な作業だった。

 中でも特に苦労したのが、昼食のカレーの用意だ。子どもたちが修学旅行の気分を少しでも味わえるようにと、彼らが実際に立ち寄る予定だった日光のお店の味を再現したカレーを振る舞うことにしたのだが、その提供プランの組み立てがとにかく大変だった。学校ごとに、受け取る時間、受け取る場所、食べる場所、食べ終わる時間を整理して、それらに合わせてカレーを作り始める時間やスタッフ配置も含めて、すべてをタイムテーブル化。極力効率的になるようにと考える一方で、1つでも時間が押してしまえば全工程が狂ってしまうため、できるだけ実現可能なスケジュールを組む必要がある。「車いすの子がいらっしゃるこの学校は、スロープもあるこの場所で…」「雨の場合を考慮して、どの学校も屋根のある場所で食べられるように…」様々な事情を考慮しながら、かつスムーズに進行するためのベストなプランを構築するのは、至難の業だった。

 「あのときは頭がおかしくなるかと思いましたね(笑)」と、Nさん。それでも彼女たちは、当日子どもたちが心の底から楽しめるように、あらゆるケースを想定しながら事前準備を徹底した。何より大切にしたのは、子どもたちにとって「修学旅行」と「よみうりランド」のどちらの思い出も楽しめるような一日にすること。

 「遊園地自体が久しぶりだという子もいたと思うんです。これまでたくさん我慢してきた分、当日も制約がある中ではあるけれど、子どもたちには少しも不安を感じることなく、ただただ楽しんでもらいたい。そのために、細かいところまで事前の準備を大事にしました」。

 思い出を、もっともっと良いものにしてあげたい。その想いが、彼女たちを突き動かしたのだった。

役割・立場に関わらず、
メンバーの一人ひとりが
「喜んでもらうためには」に
一生懸命だった。

 突如立ち上がったプロジェクトに、急きょチーム入りを命じられたメンバーも少なくはない。けれども誰ひとりとして、プロジェクトに受け身になる者はいなかった。打ち合わせでは様々なアイデアが飛び交い、「子どもたちに喜んでもらうために何ができるか」ということに、部署を超えて真剣に向き合っていた。

 「修学旅行の醍醐味といえば…枕投げ?」
 「いいね面白そう、アトラクションにしちゃおう!」

 「修学旅行の学びの要素も入れて欲しいって」
 「川崎市やよみうりランドの歴史を学べるコンテンツをつくろう!
  ただ学ぶだけじゃつまらないから、クイズラリー形式はどうだろう」

 「日光のお土産を、現地のお店から取り寄せてみようよ」

 「3月だし、最後に子どもたちによみうりランド オリジナルデザインの卒業証明書を渡そう」

 そんなメンバーの姿にNさんは、これは絶対楽しいイベントになるぞ、とプロジェクトの成功を予感した。

 「よみうりランドで働く人たちって、楽しいこと・面白いことはないかな、と常に遊びを探究しているんですよね。『お客様を楽しませたい』という気持ちの強い人が集まっているというか。
 そんなよみうりランド社員の良さが、存分に発揮されたプロジェクトだったんじゃないかなと思います。みんなが子どもたちの笑顔のために主体的に動いてくれて、とても支えられました」。

子どもたちの心からの笑顔に、
すべてが報われた3日間。

 失敗が許されない緊張感の中迎えた当日。入園する子どもたちの楽しそうな姿に、Nさんの胸には、これまでの苦労をかき消すほどの嬉しさがこみ上げてきた。

 一番心配していた昼食のカレーの手配は、時間が押すどころか巻いて余裕ができるほどスムーズに進んだ。入念な事前準備の賜物だ。アイデアのひとつであった日光のお土産物の取り寄せも大好評。長蛇の列ができていた。一生の思い出になるようにと心を込めて用意してきた一つひとつに、子どもたちは想像以上の嬉しい反応を見せてくれた。中にはスタッフたちに直接お礼を伝えに来てくれた子もいた。

 あっという間にやってきた最終日。閉園時間となり最後の学校を送り出したとき、バスから手を振る子どもたちを見たNさんの目には、たくさんの涙が溢れていた。

 「当日までは辛すぎて、あんなに早く終われと思っていたはずなのに、気づけば『もう1回やりたい』と思うようになっていた。そんな体験、初めてでした。終わるころにはとてつもなく寂しくなって、とにかく涙が止まりませんでした。

 こんなに喜んでもらえて、一生懸命頑張って本当に良かった。簡単なことではなかったけれど、挑戦して良かったと心から思えた、かけがえのない経験です」

 それから数か月後、Nさんは、中学生になった子どもたちと遊園地で再会することになる。イベントの最後にお土産のひとつとして渡した「中学生になったら使える遊園地割引券」を使って、再び遊びに来てくれたのだ。Nさんは、大きな喜びとやりがいを感じた。一生に一度の思い出で終わるのではなく、子どもたちとの関係はこれからも続いていくのだと。彼らとよみうりランドとの新しい遊びの物語が、ここからまた始まった。

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